2024年11月22日

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松屋、コンサルの収益化に手応え

利用者は専用の個室で、ゆっくりと試せる

コンサルティングの収益化に手応えあり――。松屋が銀座本店で昨年3月23日に始めた、プロのスタイリストが売場やフロアの枠を越えて女性の依頼に応える「ファッションコンサルティングサービス」は、有料ながら多くの利用者を獲得した。初年度は、最も多い月で50人が利用。利用者の約9割が衣料品などを買って帰り、その金額は平均で約20万円にのぼる。利用者の大半は松屋のカードを持たず、新規の開拓にも繋がった。

百貨店の強みである接客を、どう売上げに結び付けるか――。各社は長年に亘り試行錯誤を続けるが、松屋はロールモデルを確立しつつある。

ファッションコンサルティングサービスは、忙しく働く管理職の女性の時短需要に照準を合わせる。一般社団法人パーソナルスタイリスト協会が認定する資格を有する3人の〝プロ社員〟が、ファッションに関する要望に対応。利用者は専用の個室でフィッティングが可能だ。

料金は2時間半の「レギュラーメニュー」が5500円(1年以内で2回の利用が可能)、1時間半の「ショートメニュー」が3300円、家族や友達らと2人で利用できる「グループメニュー」が1人あたり5500円(1年以内で2回の利用が可能)。レギュラーメニューは1週間前、ショートメニューは4日前、グループメニューは10日前の予約を求める。準備が必要だからだ。全てのメニューの利用者に購入した商品を無料で送り、レギュラーメニューとグループメニューの利用者にはカフェの利用をサービスする。

当初はレギュラーメニューのみだったが、「目的が明確な女性は短い時間で済む。『1人ではハードルが高い』と、パートナーや友達らと一緒に利用する女性も少なくなかった」(谷本はるか事業推進部事業推進課コンサルティングチームマネージャー)と、今年3月1日にショートメニューとグループメニューを加えた。

ファッションコンサルティングサービスが稼働してから1年以上を経過する中で、収穫は多い。まず、利用者が想定よりも幅広かった。メインターゲットは40代~50代で、実際に50代が約45%、40代が約35%を占めるが、「育児休暇から復帰する30代前半の女性の利用も目立つ」(谷本氏)。比率では1~2%ほどだが、20代もいる。有料でも、プロに着こなしを教わりたいというニーズは多い。

松屋にとっての新規の多さ、〝成約率〟や客単価の高さも有望だ。固定客の比率が高い百貨店にとって、新客の獲得は急務。谷本さんは「新しいお客様を取り込む拠点を担える」と手応えを掴む。

好評の理由は、キメ細かいな配慮や助言、満足感だろう。「服の色は黒やネイビー、グレーばかり選んできたが、春夏らしい色に挑戦したい」と依頼した女性が出した結論が象徴的だ。

ピンクのカーディガンを気に入ったが、最終的に購入したのはネイビーのジレ。選んだのは〝いつもの色〟だ。ただし、ジレは初めて。新たな一歩を踏み出した。その背中を押したのは谷本さんだ。

「『イメージを変えたい』という相談は多いが、変え過ぎると〝タンス在庫〟に合わなくなる。大前提として、女性は『いつもと違うね』と言われたくない。ネガティブに捉える。それを避けられる、色や柄だけ、形状だけのチェンジを促す。そもそも、『イメチェンしたい』という欲求は試着だけでも満たせる」

谷本さんは、松屋のスタイリストは〝売らんかな〟でなく、顧客起点を貫く。

一方で、課題も浮かぶ。接客に費やす時間の長さとリピート率の低さだ。下見などの準備を含めると、長ければ5時間も要する。効率化は欠かせない。約2割のリピート率は、今年1月に配信を開始したメールマガジンや利用者限定のイベントの開催などで引き上げる。

メールマガジンは、1カ月に1回の頻度で送信。ジャケットの手入れの方法、手土産のオススメなど役立つ情報を届ける。

イベントでは昨夏、メイクアップアーティストを招いた相談会が賑わった。特定のブランドに所属しない〝フリー〟のメイクアップアーティストが約30分間、メイクについて助言するという内容で、ファッションコンサルティングサービスの利用者のうち買上げ額の上位を招待。2日間で15人の枠は早々に埋まり、銀座本店や銀座インズ内に構える「プチプチマルシェ」の「フルーツギャザリング」で化粧品を買って帰る女性もいた。

イベントは来店のきっかけにもなるだけに、1年間に2回の頻度で開く。

メニューも増やし、迎える2年目。定着させられるか、「2年目のジンクス」に苦しむか、真価が問われる。