2024年11月25日

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梅雨真っ盛り、百貨店は機能とファッション性の両軸で傘を拡販

松屋銀座店が6月8日~29日に開催した「GINZAの百傘会」

梅雨も真っ盛りだが、百貨店業界では傘をはじめとするレイングッズの拡販に熱が入る。近年の傘の売れ筋のキーワードは「軽量」、「ミニ」、「晴雨兼用」、「耐風」。軽く、コンパクトで、天候を問わずに使える傘に需要が集まる。百貨店ならではのデザイン性に長けた傘を求める客には、インポートを含めた“ブランド志向”も根強い。今年は傘用のケースの動きも良く、そごう横浜店では一時欠品が相次いだ。

百貨店業界にとって、6月は最もレイングッズが売れる時期だ。例えば、松屋銀座店では年間の売上げの半分ほどを、京王百貨店新宿店では「通常の月の約5倍の売上げ」(鈴木優也婦人・紳士服飾部自主売場第1担当アシスタントバイヤー)を、それぞれ記録する。各店は6月を見据えて品揃えを大幅に増やし、ビジュアルプレゼンテーションも強化して、売上げを最大化する。

近年の売れ筋について、松屋銀座店の原田敬太営業二部婦人一課バイヤーは「ここ数年で豪雨や台風、ゲリラ豪雨など異常気象を体験した結果、耐風傘など高機能な傘が求められる。一方で、ファッションのトレンドの変化によってバッグが小型化し、小さく、軽く、強い傘の需要が多い。スマートフォンの傾向と一緒と言える。お客様のニーズの第1位は『軽い』、第2位は『晴雨兼用』、第3位は『風に強い』」と説明する。その上で、コロナ禍が本格化してからは「夏場もマスクを身に付けて生活するため、熱中症への警戒心が高まり、遮光や遮熱の機能を備えた晴雨兼用へのシフトが進んだ」と指摘する。

こうした傾向を踏まえながら、各店は品揃えに工夫を凝らす。松屋銀座店の原田氏が推すのは、ムーンバットが「3秒で畳める」と利便性を謳う折り畳み傘「ウラワザ」、フランスの老舗が手掛ける「ギドゥジャン」や「シャンタルトーマス」、オーロラが「ブラオ」や「ジルスチュアート」で展開する“小さい傘”だ。

ウラワザは、世界初の形態安定技術を採用。傘の裏側に貼られた特殊なシートが、素早い生地の巻き取りを可能にする。原田氏は「昨年は無地のみだったが、柄物が追加され、百貨店のお客様に合う」と期待を寄せる。ギドゥジャンやシャンタルトーマスは、インポートならではの個性的な柄が好評。コロナ禍でもインポートの傘は売れ続けているという。“小さい傘”はファッションのトレンドで需要が増加。一般的な傘は50センチメートル前後だが、例えばブラオには38センチメートルがあり、小さいバッグを持つ女性がコーディネートの一部として採り入れる。遮光や遮熱の機能も備え、小学生の登下校用の日傘としても売れ行きが良い。4000円~5000円と価格も割安だ。

京王新宿店の鈴木氏は、雨に濡れた面を内側に畳んで自分も他人も濡れずに済む「CARRY saKASA(キャリーサカサ)」、折り畳むとスマホ並みの14.9cmになるオーロラの「CHAM CHAM MARKET(チャムチャムマーケット)」、ウラワザを勧めるとともに、男性用や子供用の晴雨兼用傘、女性用の2つ折り晴雨兼用傘の品揃えを増やした。

コンパクトで値頃な「チャムチャムマーケット」(写真は京王新宿店)

キャリーサカサは5月27日~6月9日にポップアップショップの形式で初登場。活況を呈した。チャムチャムマーケットは「軽さが重視される時代に即しており、変わった形や2000円台からの値頃感は他になく、新しいお客様を狙える」(鈴木氏)という。ウラワザは1日に4~5本のペースで売れており、男性用や子供用の晴雨兼用傘は「ニーズが多い。子供用の晴雨兼用傘は熱中症の予防に加え、『子供のスポーツの試合を観る際に小さくて周りの邪魔にならない』と購入する母親もいる」(鈴木氏)。女性用の晴雨兼用2つ折り傘は松屋銀座店と同様、小さいバッグを持つ女性がターゲットで、中でも持ち手が曲がっており、手にかけられる形状を増やしている。

そごう横浜店の飯田健太営業Ⅰ部婦人雑貨担当洋品小物係販売リーダーは、5月下旬から傘用のケースを訴求。雨が多い時期でもあり、一時は品切れが相次いだ。レインコートやレインハットも拡充。レイングッズは傘を含めて例年より250SKU多い700SKUを揃えた。コロナ禍ではキャンプやアウトドアが流行しており、レインコートやレインハットの需要も増加。傘だけでなく、新たな商機を逃さない。

傘はF1層(20歳~34歳)やF2層(35歳~49歳)にフォーカス。「ケイトスペード」や「ジルスチュアート」、「フルラ」といったブランドの品揃えを強化した。とりわけ「20代~30代にも手に取ってもらえる。ピンクやベージュなど色の独自性が高く、ディテールもオシャレ」(飯田氏)なフルラが一押しだ。

そごう横浜店が訴求に注力する「フルラ」

品揃えは今後もファッション性を追求し、ブランドごとの比率も再考。インポートの導入も含めて「30代~40代が『百貨店だからこそ、この価格でも買いたい』という傘が揃う売場を目指す」(飯田氏)。

品揃えだけでなく、ビジュアルプレゼンテーションにもこだわり、東レが開発した太陽光を99.99%以上、紫外線も99%以上をカットする「サマーシールド」を使った傘と、帝人が生み出した遮光性と遮熱性、軽さを併せ持つ「フワクール」を用いた傘を並べ、それぞれの効果を体感できる機器も配したテーブルを設置。売場には気温や天気、紫外線指数を示すPOPも置き、客の関心を引き出す。

梅雨入り後は雨が少ない日が続いたものの、6月下旬以降は増加。すでにフェアなどは終わったが、まだまだ商機は十分だ。