2024年11月22日

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全ての道民に愛され、なくてはならない存在へ、共に歩む東急札幌店と北海道コンサドーレ札幌

≪連載≫百貨店とスポーツ団体が描くウィンウィンの構図 第2回 東急札幌店×北海道コンサドーレ札幌

地域密着で共存共栄を――。主に郊外や地方に位置する百貨店とスポーツ団体の協業が活発だ。ともに、地域密着戦略が生命線。集客力で勝る大都市の百貨店やスポーツ団体に対抗するためには、地域でのプレゼンスやロイヤルティを高め、〝足元〟を固めなければならないからだ。ただ、単独では限界がある。アライアンスの輪を広げ、共創で新たな〝入口〟を構えなければならない。百貨店とスポーツ団体が手を取り合えば、百貨店にとっては日頃は接点が少ない10代や20代、30代に足を運んでもらう機会となり、スポーツ団体にとっても認知度の向上や新たなファンの開拓などに繋がる。「百貨店とスポーツ団体が描くウィンウィンの構図」では、タッグがもたらす成果を追う。第2回は、東急百貨店札幌店とプロサッカーリーグ「Jリーグ」の北海道コンサドーレ札幌だ。2016年8月にクラブパートナー契約を結び、これまで様々なコラボレーションを展開してきた。

注)コロナ禍を考慮し、2020年1月14日にビデオ会議システム「Zoom」で取材しました

【写真】東急札幌店の中川さん(左)と北海道コンサドーレ札幌の阿部さん

■2016年8月にクラブパートナー契約を締結

――まずは、東急札幌店とはどんな百貨店か、北海道コンサドーレ札幌とはどんなスポーツ団体か、紹介して下さい。

東急札幌店の販売推進担当マネジャー、山川沙知子さん(以下、山川) 「東急札幌店はJRおよび地下鉄の札幌駅に直結する利便性が高い百貨店で、1973年の開店当初より地域のお客様にとって『なくてはならない存在』を目指し、お客様の暮らしと心を豊かにする店づくりを行っています。その一環として、2017年には企業主導型保育所『さっぽろ駅前保育園』を開き、18年には『東急ハンズ』を誘致しました」

東急札幌店で販売推進担当マネジャーを務める山川沙知子さん

北海道コンサドーレ札幌のパートナー事業部、阿部瑶子さん(以下、阿部) 「北海道コンサドーレ札幌は1996年に設立され、今年で25周年を迎えます。かつてはJ1リーグとJ2リーグを行き来し、『エレベータークラブ』(編集部注:昇格と降格を繰り返す様子がエレベーターを想起させるため、サッカー界で使われるスラング)と言われましたが、2017年以降はJ1に定着。18年はAFCチャンピオンズリーグ(編集部注:アジアサッカー連盟が主催する、各国のクラブチームによる大会)の出場権を争い(最終的にはリーグ戦4位で出場に届かず)、19年は3大タイトルの1つ『JリーグYBCルヴァンカップ』で準優勝するなど、着実に成長を続けています」

「サポーターが“熱い”のも特徴で、ホームゲームだけでなく、アウェイゲームにも大勢が詰めかけます。また、クラブとしてパートナー、すなわちスポンサー企業の支援にも力を入れています」

――東急札幌店が16年8月に北海道コンサドーレ札幌とクラブパートナー契約を結んだ経緯を教えて下さい。

東急札幌店の販売推進担当マネジャー、中川彩さん(以下、中川) 「それまで接点はなかったのですが、『地域密着』や『パートナーとなった企業を応援してくれる』といった良い噂を多く聞き、『なくてはならない存在』を目指す上で連携したいと考え、アポイントを取って事務所に足を運びました。シーズンの途中でのパートナー契約は多くはありませんが、萩原正統店長(当時、現在は東急ビジネスサポート㈱の社長)の直談判もあり(笑)、締結させて頂きました。同時に私が窓口に任じられ、今に至ります」

――クラブパートナー契約を結ぶためには、少なくない費用が発生します。スポーツに興味がない従業員からの反対などはありませんでしたか?

中川 「それはなかったです。従業員には『北海道のスポーツ団体を応援したい』という気持ちが強く、むしろノリノリでした(笑)。契約に伴う金額についても、1年目は『トライアル』の位置付けで“控えめ”でしたが、協業を通じてウィンウィンの関係を築けていることから、上がりました」

――協業の第1弾は、いつ実現しましたか?

中川 「16年は北海道コンサドーレ札幌さんが優勝でJ1への昇格を決めましたが、そのタイミングで全館でのセールを開き、お祝いしました。セールだけでなく、『勝ち栗』を振る舞ったり、くす玉を割ったり、土日には北海道コンサドーレ札幌さんのマスコットキャラクター『ドーレくん』を呼んだり、選手によるトークショーを行ったり、チラシで大々的に取り上げたりした結果、開店前に多くの人が集まりました」

「契約の結び方にもよるでしょうが、北海道コンサドーレ札幌さんは(クラブの)名前やロゴ、マスコットキャラクターを比較的自由に使わせてくれます。『こんなに使わせてくれるのか』と驚くほどです」

北海道コンサドーレ札幌のマスコットキャラクター「ドーレくん」

阿部 「ウィンウィンの関係にならないと、パートナーになっていただく意味がないと思っています。『契約に基づく権益については、思う存分使って下さい』という姿勢です」

――スポーツ団体が百貨店と組むメリットを、どう捉えていますか?

阿部 「リアル店舗という強みがあり、北海道コンサドーレ札幌の名前を宣伝してくれますし、いわゆる『応援セール』でサポーターに利益をもたらしてくれます。応援セールなどパートナー企業とのコラボ企画は、サポーターの皆様に喜んで頂けます。オウンドメディアでは北海道コンサドーレ札幌に興味がある人にしか情報などが届きませんが、百貨店と組むと、それを飛び越えてリーチできるのもメリットです」

――あえて聞きますが、北海道コンサドーレ札幌は丸井今井札幌本店の一条館の9階にオフィシャルショップを構えています。東急札幌店と同じ百貨店であり、競合関係ですが、支障はありませんか?

阿部 「当社はパートナー契約などを結ぶにあたり、一業種一社制を採っていません。北海道全体を強くしていきたいからです。目下、約150社と様々な形態でパートナー契約を締結していますが、協業しながら“コンサドーレファミリー”の輪を広げていきたいです」

■新たなコラボを生み出す“架け橋”も担う

――東急札幌店と北海道コンサドーレ札幌のコラボレーションは現在、どれくらいの頻度で実施されていますか?

中川 「昨年はコロナ禍で実施できないこともありましたが、例年ですとゴールデンウィークや夏休み、クリスマスなどのイベントにドーレくんに来てもらうほか、Jリーグの開幕前や閉幕後、さらに半期に1回は全館規模のセール、イベント、SNSを使った企画などを行っています」

――最も反応が良かったのは何ですか?

中川 「19年12月8日に開いた、河合竜二C.R.C(コンサドーレ・リレーションズチーム・キャプテン)と進藤亮佑選手(当時、現在はセレッソ大阪)のトークショーです。準優勝したJリーグYBCルヴァンカップの決勝(10月26日)から日が浅く、会場は立錐の余地もないほどサポーターがいらっしゃいました。一般的にコラボの効果は売上げで測定されがちですが、SNSの数字を重視しています。北海道コンサドーレ札幌さんとのコラボを告知すると、『ツイッター』や『インスタグラム』のフォロワーが時に2倍、3倍へ跳ね上がりますからね。従業員のサポーター化も進みました(笑)」

立錐の余地がないほど賑わったトークショー

トークショーには、河合竜二さん(右)のように元選手が登場

「もう1つ、北海道コンサドーレ札幌さんは企業と企業を繋げてくれます。北海道コンサドーレ札幌のオフィシャルパートナーであるボートレース振興会さんと組んだイベントなど、通常あまり接点がない企業と新しい企画を生み出せました」

阿部 「当社も東急札幌店さんに助けられています。私は以前、チケットの販売を担当しており、法人向けのノベルティの作製を任されたのですが、一定以上のクオリティやセンスが求められます。そこで、北海道内で作られるモノにこだわろうと決めました。そんな時、『百貨店には法人向けの記念品を手掛ける外商部がある』と思い付き、製作を依頼しました。中でも、北海道コンサドーレ札幌のクラブカラーである赤色と黒色を配したオーダーメイドのグラスは好評でしたね。今は別の者が担当ですが、変わらず“北海道らしさ”を追求しており、東急百貨店札幌店さんは『多少無茶なお願いでも応えてくれる』と聞いています(笑)」

――4年半近く良好な関係を維持されていますが、抱える課題はありますか?

阿部 「長いとマンネリ化していきます。最近、新しいモノやコトを実現できていないのは課題です。権益の範囲内という制約もありますが、他の企業との協業については、もう少し協力できるのではないかと思っています」

――やはり、「権益の範囲内」には悩まされますか?

中川 「それでも、北海道コンサドーレ札幌さんは権益のギリギリまで対応してくれますし、時には違う角度からのアイディアを出してくれます。例えば、北海道コンサドーレ札幌のオフィシャルトップパートナーである石屋製菓さんとのコラボです。石屋製菓さんは当店にショップを構えており、コラボにも快く協力してくれます。阿部さんが、良いヒントを出してくれました。もちろん、何度も無理を聞いてもらっているわけではないですよ(笑)」

――百貨店業界には、担当が異動するとフェードアウトしてしまう悪弊も存在します。東急札幌店は大丈夫ですか?

中川 「定期的にイベントや企画を実施し、社内でも認知度を上げてきました。担当が変わっても、繋がっていくはずです。ただ、全館規模での訴求には課題が残ります。石屋製菓さんやサザエ食品さんら北海道コンサドーレ札幌さんのパートナーは積極的に取り組んでくれますが、パートナー以外の取引先に協力してもらうのは、セールが精一杯です。それでも、“赤黒”の商品を打ち出すなどで参加してくれます」

――権益の範囲では、グッズは販売できないのですか?

中川 「コラボグッズは可能です。不定期で販売しており、グッズによっては即完売しますよ。17年6月に店舗とインターネット通販サイトで販売した『北海道コンサドーレ札幌×一澤信三郎帆布コラボバック』は“瞬殺”でした」

■コロナ禍を踏まえ、SNSや動画での協業を検討

――東急札幌店として今後、北海道コンサドーレ札幌と実現させたい何かがありますか?

中川 「長く集客力を追求してきましたが、コロナ禍では考え方を変えなければなりません。SNSや動画でのコラボを検討中です。お客様が立ち寄りたくなる何かを、シーズンを通してできないかとも考えています。当店にはオリジナルキャラクター『とーきゅん』がいます。とーきゅんとドーレくんのコラボも検討しています。17年10月には、当店の選りすぐりの商品や選手のサインが入ったグッズなどを集め、札幌ドームでの試合に合わせてチャリティオークションを開催して活況を呈しましたが、タイミングやモノの問題などで継続できていません。いつか、第2弾を手掛けたいです」

ドーレくんと東急札幌店のマスコットキャラクター「とーきゅん」の共演も

――北海道コンサドーレ札幌としては今後、東急札幌店と何を実現させたいですか?

阿部 「1番は、開幕前とシーズン終了後のイベントの定番化です。イベントの一環で写真や記念品を展示していますが、もっともっと充実させたい。東急札幌店さんに日常的に来店してもらえる施策も考えたいです。例えば、約1万人いるファンクラブ会員へ積極的にアプローチし、来店を促すなどです。前提として、東急札幌店さんには定期的にイベントを組んでもらっており、ありがたいです」

シーズンの終了後の展示は定番化しつつあるが、内容を充実させたいという

――最後に、それぞれの営業や活動に関する目標を教えて下さい。

阿部 「北海道コンサドーレ札幌は、まだまだJ1では規模が小さいクラブですが、社長の野々村は『売上げ100億円のクラブにするのが当面の目標』と公言しています。パートナー事業部の一員としても、その目標に向けて進むべく業務にあたっていますが、コロナ禍によって苦しい状況は続きます。北海道という大きなホームタウンで、札幌市以外の各地とも手を組めるよう、スクール事業をメインに地域密着戦略を推進し、全ての道民に愛されるクラブを目指します」

コラボに関する打ち合わせは笑顔が絶えず、関係の良好性が窺える

中川 「コロナ禍では、以前と同じようには営業できません。地域の人々や企業と協業しながら、お客様が何を求めているか、何に困っているかを感じ取りながら、モノを売るだけでなく、この地になくてはならない店を目指します」

(聞き手・野間智朗)