高島屋、インクルーシブファッションの新プロジェクト始動
機能性に加え、触覚で分かるデザイン性を服に取り入れた
高島屋は、インクルーシブデザインの考え方を取り入れたファッションプロジェクト「Fashion for ALL your SENSES」の展開をスタートした。全ての人がファッションを楽しむ社会の実現に向けた新プロジェクトで、第1弾は視覚障害者と共に企画。触覚でもデザインを楽しめるカットソー全10種類を開発した。ポップアップを新宿店で9~15日、大阪店で23~29日、日本橋店で5月7~13日に展開する。
ファッションを視覚障害者の視点から再考
同社が現中計(24~26年度)で推進する、サステナブルなライフスタイルを提案する活動「TSUNAGU ACTION(ツナグアクション)」の一環。魅力的な商品やイベントの企画を通じた、社会課題の解決と利益の増大を目的とする。
同プロジェクトは、視覚要素の強いファッションについて改めて考え直すことで、全ての人がファッションを楽しめることを目指す。「企画の立ち上げから全ての過程にマイノリティーの当事者が関わる」というインクルーシブデザインの考え方を取り入れ、視覚障害者とのワークショップを何度も開催した。協力した視覚障害者は、新たな視点から価値の創出を導く「リードユーザー」と位置付ける。
インクルーシブデザインのコンサルティングを手掛けるPLAYWORKS社が商品開発に協力し、製造はアダストリアが担当。ファッションブランド「アンリアレイジ」ともコラボレーションを行った。
触覚で楽しめるディティールをふんだんに盛り込む
MD本部婦人服・婦人雑貨・子供・ホビー部マーチャンダイザーの竹村健太課長
通常商品は全てカットソーで、ウィメンズが4種類(8800円~1万2100円)、ユニセックスが4種類(9900円~1万2100円)。ウィメンズは刺繍、チュール、フリル、ペプラムなど、触覚でも楽しめるディティールを取り入れた。MD本部婦人服・婦人雑貨・子供・ホビー部マーチャンダイザーの竹村健太課長は「開発当初はもっと控えめなディティールだったが、もっとヒラヒラした方が可愛い、もっとファッション性がある方が楽しいという話になり、デザインがブラッシュアップされていった」と説明する。
ユニセックスは、カットソー素材とシャツ素材の異なる生地をドッキングしたアシンメトリーカットソー、ICカードが入る胸ポケットが付いたカットソー、シャツ襟カットソーなどを揃える。「シャツを着たい」という声が多く寄せられたため、シャツ素材を取り入れつつカットソーの着心地もあるアイテムを用意した。
アンリアレイジとのコラボアイテムは2種類で、どちらもユニセックス。ブランドロゴと千鳥格子の模様が立体的に施されたTシャツ(1万5400円)は、太陽の光に当たると色が変化する。着る人によってシルエットが変化するボールTシャツドレス(3万1900円)は、アンリアレイジで展開している「ボールTシャツ」を前後どちらでも着られるようにアップデートしたもの。
什器の選定や配置も、視覚障害者が買い物しやすいよう考えた
売場の配置や什器なども、視覚障害者の意見を多く取り入れた。服を触って確かめられるように、足元を固定した倒れにくいトルソーを採用。接客でも「ぜひたくさん触ってください」と声掛けすることを推奨する。白杖を持つ人が感知しやすいよう、ラックや什器は通常より足元がしっかりと箱型になっているものを選定した。導線はシンプルな一筆書きの方が分かりやすく、斜めやラウンドする什器は方向が分からなくなるため、直線的に什器を配置している。
「押し付け」ではない、誰もが着たくなる服に
開発過程では、視覚障害者と綿密にコミュニケーションを取ることで、様々な学びがあったという。PLAYWORKSのタキザワケイタ代表取締役は「最初のインタビューで、視覚障害のある方が『障害者の服は着たくない。裏表がないとか、上下どちらも着られるといった服は、押し付けられている気がする』とおっしゃっていた。それからは“その方が本当に着たくなる服”をモチベーションにやってきた。最終的には、視覚障害のある方も、ない方も着たくなる服ができたと思う」と振り返る。
アンドエスティビジネスプロデュース部プロデュースUnitの松浦健志マネジャーは「先に仮説を立て、それを検証する形で開発を進めたことで、様々な知見を得ることができた」と語る。また「何か修正がある度に、高島屋の方がリードユーザーに必ず現物を確認してもらっていたのが印象的。とても丁寧なものづくりをされていると感じた」と話した。
今後も様々な商品を企画・販売し、長期的に取り組んでいく意向だ。竹村氏は「色々なお客様の声をしっかりと聞き、それを元に今後の方向性を決めていきたい。今回のTシャツに合わせるアイテムを開発することもできるし、視覚以外の観点に着目して商品を開発するのも良い」と展望を述べた。
(都築いづみ)